医学部の面接で怖いのは、「知らないこと」ではありません。
もっと怖いのは、知らないことを知っているように振る舞うことです。
面接対策をしていると、受験生からよくこんな相談を受けます。
「知らないことを質問されたら、どうすればいいですか?」
もちろん、事前に調べられることは調べておくべきです。
志望大学の建学の精神や教育方針、自分が志望理由書に書いた内容、最近の医療ニュースなど、聞かれる可能性が高いことについて準備をしておくのは当然でしょう。
しかし、それでも知らないことは出てきます。
医学部受験生は医師ではありません。
医学部教授でもありません。
世の中の医療問題をすべて把握している高校生や浪人生など、いるはずがありません。
だからこそ大切なのは、
「知らない質問をされないようにすること」
ではなく、
「知らない質問をされたとき、どう向き合うか」
なのです。
面接は知識の一問一答ではない
受験生が面接で緊張する理由の一つに、面接を「口頭試問」のように考えてしまうことがあります。
面接官が質問する。
受験生が答える。
正解なら○。
不正解なら×。
そんなイメージです。
しかし、少なくとも一般的な医学部面接は、そのような単純な構造ではありません。
面接官「○○について知っていますか?」
受験生「申し訳ありません。そこまでは分かりません」
面接官「ああ、そうですか」
これで話題が変わることもあります。
あるいは、
「では、こちらについては知っていますか?」
と別の質問に移ることもある。
場合によっては、
「知らないですか。これは私の講義でも扱っていることなんですが……」
と、面接官の講義が始まることだってあります。
面接はペーパー試験ではありません。
人間と人間との会話です。
一問一答ではなく、キャッチボールなのです。
だから、一つの質問に「知りません」と答えた瞬間、
「はい、減点!」
となるとは限りません。
むしろ重要なのは、その後です。
なぜそんな質問をするのか
そもそも、面接官はなぜその質問をしたのでしょう。
本当に知識を確認したかったのかもしれません。
志望理由書に関連する内容だから、当然知っているだろうと思って質問したのかもしれない。
あるいは、単純に会話の流れから思いついた質問かもしれません。
さらに考えられるのが、
「この受験生は、知らないことを聞かれたときにどう反応するのだろう?」
というところを見ている可能性です。
もちろん、個々の面接官が何を意図して質問しているかは外部から断定できません。
しかし医学部面接が人物評価を含む以上、回答内容だけではなく、受験生がどう反応するかも評価材料になり得ます。
知らないことを知らないと言えるか。
曖昧な記憶を事実のように話さないか。
質問の意味が分からなければ確認できるか。
間違いを指摘されたら修正できるか。
相手の説明を聞く姿勢があるか。
こうした部分には、その人の思考習慣がかなり表れます。
そしてこれは、医師という職業を考えれば、決して小さな問題ではありません。
知ったかぶりのほうが危険
たとえば面接で、よく知らない医療用語について質問されたとします。
どこかで聞いたことはある。
ニュースで見た記憶もある。
しかし、正確には説明できない。
このとき一番危ないのが、
「たぶん、こういうことだったと思います」
と曖昧な記憶をつなぎ合わせ、もっともらしい話を作ってしまうことです。
面接官がその分野の専門家だったらどうでしょう。
当然、分かります。
しかも自分から話し始めてしまった以上、
「それは具体的にはどういうことですか?」
「なぜそう考えるのですか?」
「今おっしゃったことの根拠は?」
と掘られる可能性があります。
一つ取り繕う。
その説明のために、もう一つ取り繕う。
さらに質問される。
こうなると、最初に
「申し訳ありません。その言葉については正確に理解していません」
と言うより、はるかに苦しい展開になります。
知識不足だけなら、その分野について知らなかったという話です。
しかし知ったかぶりをすると、話は知識だけでは終わらなくなります。
誠実性や自己認識まで疑われる可能性が出てくるからです。
これが怖いのです。
「分かりません」で終わらなくてもいい
では、知らないことを聞かれたら、何でも
「分かりません」
と答えればいいのでしょうか。
もちろん、そういう話でもありません。
大切なのは、自分が分かっている範囲と、分かっていない範囲を区別することです。
たとえば、
「その言葉自体は聞いたことがありますが、正確に説明できるほど理解していません」
という場合もあるでしょう。
あるいは、
「詳しくは分かりません。ただ、○○に関係する問題だという認識はあります」
という場合もあります。
逆に、本当に何も知らなければ、
「申し訳ありません。その点については勉強不足で、分かりません」
で構いません。
重要なのは、格好の良い言い回しを暗記することではありません。
自分の理解度を正確に把握し、それ以上のことを無理に言わない。
この姿勢です。
そして面接官が、
「これはね……」
と説明を始めたら、そこからはむしろチャンスです。
話を聞けばいい。
相手を見る。
頷く。
理解しようとする。
必要なら質問する。
面接官の説明を受けて、
「そういう意味なのですね。私は○○と混同していました」
と気づくこともあるでしょう。
ここから再び会話が始まります。
面接は「知らない」と言った瞬間に終了するゲームではないのです。
医師にも「分からない」はある
これは医学部に入ってからも、その先も同じでしょう。
医師になれば、あらゆる病気について即答できるようになるわけではありません。
自分の専門外のこともあります。
判断材料が足りないこともある。
追加の検査が必要なこともある。
他科の医師に相談すべき場面もあるでしょう。
そこで重要になるのは、
「自分はどこまで分かっていて、どこから分からないのか」
を認識することです。
分からなければ調べる。
必要なら人に聞く。
判断できなければ、判断材料を集める。
間違っていたら修正する。
これは受験テクニックというより、学ぶ人間に必要な基本姿勢です。
だから私は、面接で知らないことを質問されたとき、
「何と言えば減点されませんか?」
という発想だけで考えてほしくありません。
もっと大切なのは、
「知らないことに直面したとき、自分はどう振る舞う人間なのか」
ということです。
面接官は「その先」を見ている
医学部面接で評価されるために、何でも答えられる受験生になる必要はありません。
知らないことはあります。
間違えることもあります。
質問の意味を取り違えることだってあるでしょう。
そのときの受験生のリアクションは?
誤魔化すのか。
知ったかぶりをするのか。
固まってしまうのか。
正直に認めるのか。
説明されたことを受け入れられるのか。
そこから考え直せるのか。
面接官が見ているのは、回答そのものだけではありません。
挙動を見ています。
人と向き合う姿勢を見ています。
その受験生が、相手とどう会話する人なのか。
知らないことと、どう向き合う人なのか。
そして、新しいことを受け入れて学べる人なのか。
そうした部分も、会話の中から見えてきます。
「知らない」と言うことを恐れる必要はありません。
恐れるべきなのは、知らない自分を隠すために、曖昧な知識で話を作ってしまうことです。
医学部面接は、知識自慢大会ではありません。
面接官とのキャッチボールです。
ボールを一つ取り損ねたからといって、そこで試合終了ではありません。
次のボールをきちんと受け取ればいい。
そして相手が投げてきたものを受け止め、自分なりに考えて返す。
その姿勢こそ、医学部面接では大切なのだと思います。