医学部の面接は、単に自己PRをする場ではありません。あなたという人物が、大学の中、そして将来の医療現場において「うまくやっていけるかどうか」を見られる、極めて現実的な選抜です。
その意味で、「合わせること」「寄せること」という発想をもつと良いです。
この発想を持つか否かは、戦略というより医療人としての適性を測る試金石だといえるのです。
面接で見られる本当の力
面接官には、「この人は頭がいいか」を問う以上に、「この人はうちの大学に合うか」「周囲と円滑にやっていけそうか」の視点があります。
実際、どれほど学力があっても、「協調性がない」「態度に問題がある」と判断されれば、不合格になるケースは珍しくありません。
とくに医学部では、「チームで学び、チームで働く」意識が非常に重視されるからです。
医学部は協調性が命
医学部に入学すると、グループでの解剖実習あります。
5〜6人で1体のご献体を扱い、役割分担しながら作業を進めるなかで大切なことは、協調性・礼儀・責任感です。
ご検体の耳をメスで切り取って壁に貼り付けて「壁に耳あり」と言って笑った学生がいたという不謹慎極まりない「事件」が起きた大学も過去にあったようですが、大学側からすると、どんなに学力があっても、このようなモラルや常識に欠けた人間は入れたくないわけです。
「壁に耳あり学生」は極端だとしても、少なくともチームの「和」を乱す人、揉め事を起こす人間はいて欲しくないと考えるのは当然のことです。
また、臨床実習では、医師だけでなく看護師、薬剤師、事務スタッフ、患者さんやご家族など、多職種と接することになります。
周囲との信頼関係を築けるタイプなのかどうかも面接の段階でチェックされていると考えて良いでしょう。
そして、卒業後に所属する「医局」は、未だに縦社会の色が濃く、先輩との関係構築は不可避。どんなに優秀でも、周囲とぶつかりやすい人は医療の現場では孤立してしまいます。
「コミュ力が大事」とはよく言われることではありますが、コミュニケーション力のことを「打ち解けるのが早い」「自分は人見知りしないからコミュ力がある」と考えている人は、真のコミュ力は「瞬発的な関係性の構築力」ではなく、「持続的な関係持続力」と認識し直した方が良いでしょうね。
「役作り」は敬意の形
面接で「寄せる」というと、自分を偽ることだと感じる人もいるかもしれません。しかし、それは違います。
大学の雰囲気や理念、教育方針に合わせて受け答えを整えることは、“敬意”の表現です。相手の土俵に敬意を払い、自分をチューニングして臨むことは、むしろ真面目さや配慮が伝わります。
たとえば、以下のような「役作り」は有効です。
地域医療重視の大学には「将来は地元に貢献したい」という視点を。
研究志向の大学には「探究心や研究への関心」を。
協調性重視の校風なら「チーム活動の経験や学び」を。
医学部面接の準備方法
「寄せる」準備は具体的にどうするのか。大切なのは、その大学の文化や求める人物像を徹底的に調べることです。
大学のホームページで教育方針や研究内容を確認する
医学部のパンフレットや説明会資料を読み込む
OB・OGや合格体験記から、面接の雰囲気を把握する
こうした情報をもとに、自分の体験・価値観と重ね合わせ、どのように話せばその大学にフィットしていると思ってもらえるかを考えましょう。
リスクを見越した備えを
面接官が恐れているのは、「合格させた学生が、入学後に問題を起こすこと」です。
たとえば:
寮生活でトラブルを起こす
解剖や実習で協調できない
無断欠席や遅刻を繰り返す
教員に対して反抗的な態度をとる
こうした“火種”を感じさせないように、受け答え、表情、言葉遣い、立ち居振る舞いまで準備しておくことが、自分自身を守る意味でも重要です。
面接官が見る未来の姿
医学部面接で見られているのは「今のあなた」ではありません。
入学後、真面目に授業に取り組むか
実習やグループ活動で協調できるか
医局や医療チームでうまくやれるか
そして、患者さんに寄り添えるか
面接官は、そうした“医師としての未来像”を想像しながら、今のあなたを観察しているのです。
そのため、どれだけ「良いこと」を言えても、それが表情や声のトーン、所作と合っていなければ、信頼されません。
寄せる力が鍵
「合わせる」「寄せる」ことは、迎合ではなく戦略です。自分を過剰に飾らず、大学の文化に自然に溶け込もうとする姿勢は、将来の医療現場での成功につながる“第一歩”でもあります。
医学部面接は、単なる知識確認ではなく、「一緒に働きたいと思えるかどうか」を見られる場所。
受験生の皆さんには、「寄せる力」を武器にして、自信を持って面接に臨んでほしいと思います。