注目される「働き方改革」の波

高市総理の首相就任あいさつで一躍注目された「ワークライフバランス」。

この言葉は今、医療界でも大きなテーマとなっています。

医師の過重労働や夜勤の連続、医療ミスを防ぐための休息時間の確保など──。

「人を救う仕事」であるがゆえに、医師自身の健康を守ることが難しいという現実が、社会全体の課題として浮かび上がっています。

医療はチームで成り立つ仕事ですが、その一人ひとりに過度な負担がかかれば、患者さんの安全も脅かされます。

医師不足や診療科の偏りが改善されない中で、働き方改革をどう実現するかは極めて現実的な課題です。

医学部受験においても、「理想の医師像」を語るだけでなく、社会の構造的課題に目を向ける姿勢が求められています。

面接で問われる「理想と現実の間」

実際、少し前にある大学の医学部面接では次のような質問が出されました。

「医師の過重労働が問題となる中で、ワークライフバランスをどう実現すべきか。」

この質問は、単に「休みが必要」という理想論を語らせるものではありません。
医療の現場を理解した上で、現実と理想をどう両立するかを問う設問です。

医師の使命感と、人としての健康を守る責任。
その両方をどう位置づけて語るかが、面接官の注目点となります。

受験生がここで陥りがちなのは、「働きすぎはいけない」「休息が大事」という表面的な答えです。

面接官が聞きたいのは、「現場を理解したうえでの解決志向」です。

つまり、「現状をどう見ているか」。
そして、「その中で自分がどう貢献できるか」を具体的に話すこと。

この質問を通して、単なる知識よりも、社会に対する成熟した視点が試されています。

模範的な考え方と答え方

最初に現実を認めることが大切です。

「確かに医師や看護師の負担が重く、単に休みを増やせば解決する問題ではない」と前置きし、そこから自分なりの提案へ展開すると良いでしょう。

たとえば、
「チーム医療による業務分担」「勤務時間の見える化」「ICTを活用した情報共有」など、「仕組みで守る医療」という視点を持つと、具体性と説得力が増します。

さらに、「医療者の健康が守られてこそ、患者に質の高い医療を提供できる」という一言を添えると、倫理観と現実理解のバランスが伝わります。

また、面接で強い印象を残すには、「自分の言葉」で語ることがとても大切です。

「理想は、医師も患者も健康でいられる医療現場です」など、短くても軸のある表現は面接官の心に残ります。
解決策を並べるだけでなく、「なぜそう思うか」という背景を語ることで、思考の深さが伝わるのです。

面接官が見ている“姿勢”とは

このテーマで評価されるのは、思考の柔軟性と責任感です。

理想論だけでも、諦めの現実論でもなく、「現実を理解したうえで希望を語る姿勢」。

ワークライフバランスは「甘え」ではなく、医療の持続可能性を守るための新しい価値観です。

働くことも、生きることも、どちらも大切にできる医師──。
面接官は、その姿勢を見抜いています。

実際、現場で働く医師の中にも、「自分の時間が確保されることで、患者により丁寧に向き合えるようになった」と話す人が増えています。

つまり、ワークライフバランスとは「楽をすること」ではなく、医療の質を高めるための戦略なのです。

受験生がこの視点をもって面接に臨めば、単なる知識ではない、社会的成熟を備えた印象を残すことができるでしょう。