建前の裏にある大学の本音
医学部の面接でよく出る質問のキーワドに「共感力」「寄り添う姿勢」「チームワーク」「協働」などがあります。
一見すると、優しさや人間性を確認するための質問に見えるかもしれません。
もちろん、それらも見ようという意図はあるでしょう。
しかし、その奥にある「大学が本当に聞きたいこと」は別のところにもあります。
大学(病院)は本音では、「医師も一種のサービス業だ」という現実を理解している学生を求めています。
もちろん、大学が「医療はサービス業です」とは言えません。
それを口にすれば、医療の神聖性や倫理的理念が崩れてしまうからです。
けれども実際の医療現場では、患者対応や説明、態度や言葉づかいといった“サービス的資質”が、治療の成果や病院の評価に直結している。
特に、最近はインターネットやSNSの普及によって、ますます利用者は病院を飲食店を見る目線と同じような「カスタマー目線(消費者目線)」になっているという現実があります。
飲食店をGoogleで検索すれば、住所や営業時間、そして五つ星評価が掲載されますよね。
それと同じように、病院も飲食店や店舗と同じように、五つ星評価が掲載されます。
そして、その評価の内容を見ると「医療」や「診察内容」そのもの以前の問題、つまり「受付の態度」「電話応対が良い・悪い」「予約が取りやすい・取りにくい」などといったことが評価の根拠になっていることが少なくありません。
つまり、どんなに素晴らしい医療技術があっても、態度が悪かったり、患者さんの機嫌を損ねるようなことがあると、消費者感覚の患者さんからは低い評価をされてしまうこともあるのです。
だからこそ、大学は「共感」や「寄り添い」という言葉を通じて、実質的には「サービス提供者としての成熟」も学生に問うている可能性があります。
そこを汲み取った上で面接対策をするかしないか。
意外と重要なことだったりします。
なぜなら「質問の裏にある本音」を知れば、「こう質問されたら、こう答える」という一問一答式の膨大な暗記作業が軽減されるからです。
面接で問われているのは「察する力」
面接官が見たいのは、優等生的な暗記回答ではありません。
表面的な質問の裏にある意図を読み取り、相手の立場を察して答えられるかどうか。
これが医学部面接の本質です。
つまり、大学側が言葉にできないメッセージを読み解く「読解力」、さらにいえば「空気読解力」。
それこそが、臨床現場で最も重要な「人間理解力」の原型なのです。
どれだけまじめに「寄り添う医師になりたい」「共感できる医師を目指す」と答えても、その言葉の中に「現実を見据えた洞察」がなければ、面接官の心には響きません。
医学部が本当に欲しているのは、理想と現実の両方を理解したうえで動ける人間です。
医療はもう「縦の時代」ではない
かつての医療は「先生と患者」という明確な上下関係のもとで成り立っていました。
しかし今や時代は変わり、医療は“横の時代”に入りました。
これは学校などの教育の現場にも同じことが言えるかも知れませんね。
患者や生徒(とその親)は、昔よりも「強く」なっている。
いや、「強い」というよりは、感覚が先述した「消費者目線」に転化してきているということなのでしょう。
先述した通り、医師の腕前よりも、受付の対応や看護師の言葉づかい、病院の雰囲気で評価が左右される時代です。
口コミ評価も、医師の技術より「説明が丁寧だった」「受付が冷たかった」といったホスピタリティ面の評価が中心になっている感さえあります。
こうした社会の変化を、大学も当然理解しています。
だからこそ、入試で「人間力」や「コミュニケーション力」といった言葉を頻繁に使うのです。
本音としては、トラブルを起こさず、感情的な摩擦を残さず、クレームや訴訟に発展しないように立ち回れる“気転の利く医師”が欲しい。
しかし、「クレームを防げる医師が欲しい」とは口が裂けても言えません。
だから遠回しに、「共感」「傾聴」「協調性」といった言葉で試してくるのです。
大学が使う遠回しな質問の例
医学部面接では、次のような質問がよく出ます。
これらはいずれも、「サービス業的対応力」を見抜くための間接的な質問です。
「人と接するうえで大切にしていることは何ですか?」
→(本音)相手に不快感を与えずに対応できるか?
「患者から不満やクレームを受けたらどうしますか?」
→(本音)感情的に反発せず、状況をコントロールできるか?
「共感とはあなたにとってどんなことですか?」
→(本音)心理的同調だけでなく、説明力・伝達力を持っているか?
「医師に必要な資質は何だと思いますか?」
→(本音)“信頼される言動”を理解しているか?
「チーム医療で意見が合わないときどうしますか?」
→(本音)上下関係を保ちながら調和を取る力があるか?
「タバコを吸っている人がいたらどうしますか?」
→(本音)頭ごなしに正論を振りかざす人間か否か?
これらの質問の狙いを理解しないまま、テンプレート的な答えを暗記しても、大学側の琴線には触れません。
表面的な正直さよりも、相手の立場を理解して言葉を選べる知性が求められているのです。
暗記よりも本質をおさえた面接対策を
医学部面接の本当の対策とは、「質問を覚える」ことではなく、「大学が何を恐れ、何を求めているのか」を読むことにあります。
大学も病院も、トラブルや訴訟、SNS炎上を避けたい。
だからこそ、察して動ける人材を求めているのです。
ナイチンゲールが衛生の徹底で死亡率を減らしたように、現代の医療は“人の心の衛生”をどう保つかが問われています。
その意味で、「医師にサービス業的精神を求める」ことは決して間違いではありません。
むしろ、医療を支える新しい教養であり、成熟の証です。
つまり。
面接で試されているのは、知識でも優しさでもなく、
「大学の言えない本音を察し、言葉に変換できる力」なのです。