共同生活で育む医師の原型

昭和大学や順天堂大学、川崎医科大学のように、初年次から寮生活が義務づけられている医学部では、入試段階から「学力以外の面」を強く重視する傾向があります。

とくに昭和大学の富士吉田キャンパスは、医・歯・薬・看護の医療系学部が同じ寮で生活するという独自の環境を持ち、他者との向き合い方がそのまま将来の医療者としての姿勢に直結します。

大学側が知りたいのは、成績表からは見えない人間性であり、チームの中でどのように振る舞うかという姿勢であり、価値観の異なる仲間とどう折り合いをつけられるかという成熟度です。

これらは、どれだけ高い学力を持っていても、共同生活の経験が少ない受験生には意識しにくい視点でもあります。だからこそ寮生活に関する質問は、単なる生活習慣の確認ではなく、医療者としての適性を測る入口として機能しているのです。

実際に面接で質問されたこと

では、実際に昭和大学の面接ではどのような質問が出されたのでしょうか。

多くの受験生が「学力には自信がある」「医師になりたい理由は語れる」と準備して面接に臨みますが、いざ質問を並べてみると、想定を超える“生活と人間関係のリアル”が突然目の前に置かれるのです。

寮生活の悪い点と、問題が起きたときどう対処するか。

仲間外れにされたらどうするか。

他人に絶対してはいけないことは何か。

いじめをどう捉えるか。

多くの異なる意見が出てきたとき、あなたはどうまとめるのか。

友人関係の中であなたはどの立ち位置を取るのか。

他学部の学生に嫌われた場合はどう向き合うのか。

これらの問いを前にすると、多くの受験生が「勉強では対策できない部分だ」「どう答えるべきなのか全く整理できていない」と戸惑います。

なぜなら、これらは“正解”を探す問題ではなく、“あなたという人間を見たい”という大学側が知りたいことがわかりやすく表出された質問だからです。

さて、あなたならどう答えますか?

面接官の前で言葉が止まってしまうのか、それとも落ち着いて自分の考えを示せるのか。ここで大きく差がつきます。

大学が本当に知りたい視点

まず、寮生活の良い点を並べたり、寮生活をしたいという希望だけでは、面接では十分な評価につながりません。

大学が探っているのは、トラブルが起きたときの対応の仕方であり、自分の感情を処理する落ち着きであり、相手を尊重しながら関係を築ける倫理観です。

仲間外れにされたとき、我慢するだけでは評価されず、相手を非難するだけでも未熟さが残ります。

いじめについて問われる場合も、道徳的な正解を述べる場ではなく、弱い立場の人にどう寄り添うか、自分ひとりで抱え込まず周囲の助けを借りられるかという姿勢が見られています。

これらは医療現場で求められる態度そのものであり、多職種と協働する姿勢や、患者の尊厳を守る姿勢、透明性のあるコミュニケーションへとつながる重要な要素です。

面接官が注目する“対話の姿勢”

寮生活に関する質問の背景には、「異なる意見をどうまとめるか」「友人関係の中でどのような立ち位置になるか」といった対人関係の基礎を試す意図があります。

ここで大切なのは、表面的な協調性を示すことではなく、相手の話を丁寧に聞き、感情と事実を整理し、共通の目的を確認しながら落ち着いて話し合う姿勢です。

これは医療チームでの意思決定と同じ構造を持っており、大学側はその原型を受験生の中に見ようとします。

自分は調整役になることが多い、周囲を和らげる存在になりやすい、といった等身大の自己理解を具体的に言える受験生は面接官の評価が高くなります。

過度に自分を装う必要はありません。
むしろ周囲との関わり方に責任を持とうとする姿勢のありや、なしやが重要だといえましょう。

トラブル対応に現れる成熟性

「寮生活の悪い点は何か」「問題が起きたらどうするか」という質問は、寮生活そのものよりも、受験生の危機対応の成熟度を確かめる意図があります。

寮では生活リズムや清潔感の違い、音、温度設定、勉強スタイルといった細かな点で摩擦が生まれやすく、むしろそれが普通です。

そのとき、感情的に反応したり一方的に相手を責めたりせず、一度距離を置いて気持ちを整えられるかどうかが重要です。

必要に応じて相談窓口を利用し、問題を透明化して長引かせない姿勢を示せるかどうかも評価の対象になります。

医療現場でも問題を隠すことは状況を悪化させるだけであり、寮生活のトラブル対応は、医療者としての振る舞いを試す縮図のような役割を持っています。

寮生活と医療者像の重なり

寮生活に関する質問で評価を高めるためには、単に答えるのではなく、医療者としての視点を自然に重ねることが大切です。

相手の尊厳を傷つけない関わり方を意識すること、弱い立場の人を守ろうとする姿勢を示すこと、意見の違いを対立ではなく改善の機会と考えること、相談をためらわず問題を早期に共有すること。こうした姿勢は、寮生活と医療現場の双方に求められる普遍的な態度です。

大学が求める人物像を理解したうえで面接に臨むことで、単に“正しいことを言う受験生”ではなく、“医師として成長していける受験生”として見てもらえるようになります。

学力が近い受験生同士なら、最終的に差がつくのはこの部分であり、寮生活を重視する医学部ほど、ここを丁寧に評価しようとします。

面接は、学力だけでは見えない部分を示す絶好の機会であり、その意味を理解して臨むかどうかで結果が大きく変わっていきます。