職業適性試験の顔も持つ

医学部受験は、他学部と同じ大学入試であることは間違いありません。
しかし同時に、それは「職業適性試験」という側面を強く持っています。

なぜなら、合格した先にある道はほぼ例外なく「医師」という職業だからです。

医師は人の健康と命を預かる職業です。
知識や技術はもちろんのこと、患者や医療スタッフとのコミュニケーション力、倫理観、冷静さやタフネスがなければ務まりません。

だからこそ、医学部の入試には小論文や面接、MMI、グループ討論といった学力以外の要素が課されているのです。

リペーパー(学力)がいくら優秀でも、「性格が極端にねじ曲がっている」「声が小さい」「何を言っているかわからない」等といった点で医師としての適性に疑問が残る場合、大学側は「不合格」と判断します。

これは冷酷に見えるかもしれませんが、当然の「ふるい分け」です。

評価は常に「他者」が下す

大学受験にも就職活動にも共通することですが、合否や評価を下すのは常に「他者」です。

就活であれば会社側が採用or不採用、給料や役職、配属先を決めます。
大学入試であれば大学が「合格」か「不合格」かを決定します。

本人がどれだけ「私は合格に値する人間だ」と思っていても、大学の評価が「否」であれば「否」です。

例えば就活で「私は1億円の価値があるので月収1000万円ください」と叫んでも、社会的に根拠がなければ、それは「狂言」でしかないのです。
高い自己のイメージを持つことは否定しません。
いや、むしろ若者は、大きな大志と、それに見合わないかもしれないが「いつかは!」という大きなセルフイメージを抱いて欲しいものです。

しかし、そこでストップしてはいけません。

大事なのは、自分のセルフイメージを高めつつ、それを「他者」に伝わる形にチューニングしていくことです。
この「相手に合わせて調整する」という姿勢がなければ、社会では、いやもっと近未来で言えば医学部入試には通用しません。

チューニングを拒むのは甘え

医学部予備校や塾の役割は、このチューニングを手助けすることです。

数学で「数列」が弱いなら、そこを徹底的に鍛える。

面接で声が小さいなら、「もっと大きな声を出して伝えなさい」と指導する。

こうしたアドバイスは当然のことです。
むしろアドバイスをしないことこそ指導側の職務放棄です。

しかし中には「私は数列をやりたくないのに!」「声を大きく出せと言われて傷ついた!」と反発する受験生も、300人に一人くらいの確率でいます。

言っちゃ悪いが、これは「甘え」にほかなりません。

なぜなら、「周囲が自分に合わせてくれる」ことを期待しているからです。

しかし現実は逆です。

「受験生が大学に合わせる」のです。

大学は受験生一人ひとりにわざわざ歩み寄りません。
そんな面倒な受験生を取る暇があれば、素直で柔軟な他の受験生を合格させるに決まっています。

現場の患者は多様で厳しい

想像してみてください。
医師が相手にするのは、優しく礼儀正しい人ばかりではありません。

反社会的勢力に属していた人、不法滞在の外国人患者、全身刺青の元893、社会的地位は高いが人間性は最低な老人、話し出したら止まらないオバサン。

医師は、こうした患者一人ひとりにもフラットに向き合わなければなりません。
それができないのであれば、医師という職業は務まりません。

ところが、受験の段階で「もっと声を大きく出さないと面接官に聞こえないよ」と言われたから傷ついたと泣く受験生や、それに対して「うちの子をいじめないでください!」とクレームを入れる保護者がいます。

果たしてその延長線上に「命を預かる医師」としての未来があるのでしょうか?

そのような姿勢のまま医師を目指すこと自体が狂気の沙汰ではないでしょうか。

傷つきを成長に変えるか否か

もちろん、弱点を指摘されれば誰だって不愉快に感じますし、心がざわつくものです。

ですが、そこで「悔しいけど直そう」と考える受験生は伸びます。

逆に、「傷ついた!」とそのことばかりを強調し、親に泣きつき、クレームに走る人は、大学受験よりももっと厳しい医学部に入ったとしても壁にぶつかり続けるでしょう。

医学部受験においては、学力と同じくらい「謙虚に受け止め改善する姿勢」が問われています。
むしろそれがない人を不合格にすることは、大学側にとっても、患者や社会にとっても適切な判断だとさえ言えます。

合否を決めるのは甘え克服力

結局のところ、医学部入試は知識量や偏差値だけを問う試験ではありません。将来の医師として必要なタフネス、謙虚さ、適応力を試す場でもあります。

だからこそ、予備校で「弱点の指摘」を受けたときにどう反応するかが、合否を分ける重要なポイントになるのです。

医学部受験は「薔薇の道」ではありません。むしろ「茨の道」であり、その入り口から既に厳しさは始まっています。
ここで「甘え」を捨てられるかどうか。それが、医師としての第一歩です。

医師に向かないタイプもいる

断言します。「ちょっと改善すべきポイントを指摘されただけで泣きつく生徒」や「ちょっと注意を受けただけでクレームを言う親」は、医学部受験に向いていません。

むしろ、その一枠を「タフネスと謙虚さを持つ生徒」に譲っていただいた方が、社会にとっても幸福だとさえ思います。

甘い考えで医師になれると思うな。
厳しさを受け止められる覚悟がある人だけが、医学部に合格し、真に人の命を預かる医師になれるのです。

医学部以外も選択肢に

だから、自分の苦手箇所を指摘されても改善する意欲のない人、子供の一挙手一投足に一喜一憂していちいち過剰反応を示す親御さん、すいません、残念ながらあなた(あるいはあなたのお子さん)は、医師に「向いていません」。

どんなに学力があったとしても、捻じ曲がった性格や、悪い意味での敏感過剰反応体質がある限り、何浪したところで「人間の根本」を改善しない限り、こと「医学部合格」(それも正攻法での合格)に関しては難しいと判断した方がお子様のためでしょう。

だからと言って、それは人間性の否定ではありません。

たまたま「医師」や「医療従事者」としては向いていないというだけであって、その性格が活かせる職業は世の中には星の数ほどあります。

表面的な沽券やプライドもあるでしょうが、受験の際の学部は医学部以外にも滑り止めとして異なる学部を受験してみたらいかがでしょう?

意外とそちらの学部の方が向いている可能性も十分にあるのです。