医学的知識がなくても大丈夫?

受験生から次のような相談をよく受けます。

「大学は医学部を目指していますが、医学的知識は皆無です。本当に医師を志していますが、受験勉強で手一杯で医学の勉強にまで手が回りません。大学に入ってから覚えれば良いのでしょうか?」

この問いに対する結論はシンプルです。医学知識がなくても医学部は目指せます。しかし、まったく触れないまま進むよりは、少しだけ医療の世界にアンテナを伸ばしておいた方が良い、という話になります。

医学知識よりも受験が先という考えは正しい

高校生にとって大切なのは英語、数学、化学、生物といった受験科目です。これは医学部志望の誰にとっても避けられない優先順位であり、医学知識よりも受験勉強にウェイトを置くこと自体は誤りではありません。

プロサッカー選手を目指す子どもが、まず走ったりボールを蹴ったりしながら基礎体力をつけていくのと同じです。戦術の専門書や詳細な医療知識は、後からいくらでも学べるものです。

医学部の場合も、本格的な医学の学びは大学に入ってから始まります。この点は高校生が「医学を学べていないこと」を過度に気にする必要がない理由です。

とはいえ、医学部は6年間、その先は一生続く世界

一つだけ付け加えておくと、医学部で学ぶ内容は非常に専門的で膨大です。合格してから初めて医療という世界に触れた人の中には、想像していたものとは違うと戸惑うこともあります。しかし、一度医学部に入学してしまえば途中で方向転換するのは容易ではありません。そこに現実的な重さがあるのも事実です。

その意味で、受験期にほんの少しだけでも医療の世界を覗いておくことは、転ばぬ先の杖と言えます。心構えや将来像を確認する意味でも有効です。

本格的な学びは大学で

ここで注意したいのは、受験期に医学の専門書を読み込めという話ではないことです。本腰を入れる必要はまったくありません。息抜きのつもりで、一般向けの医学解説書を読んでみたり、医療系のニュースや動画を眺めてみたりするだけで効果があります。

この程度の関わり方でも、化学や生物の勉強がなぜ必要なのかが理解しやすくなり、勉強へのモチベーションが高まることがあります。実際、中学の基礎に立ち返って学び直し、その勢いのまま全国模試で上位に入った受験生もいました。興味や動機付けが引き金になることは珍しくありません。

“リサーチ沼”には要注意

ここで一つだけ注意が必要です。リサーチは有益ですが、ハマりすぎると逆効果を生むことがあります。情報を集めることに夢中になり、肝心の勉強が止まってしまうことがあるからです。医学部受験は情報が多い世界ですので、ネットサーフィンを続けているうちに、受験の厳しさを知りすぎて不必要に悲観的になったり、複数の勉強法に振り回されて何をしていいのかわからなくなったりする受験生もいます。

大切なのは、情報収集はあくまで補助であり、主役は受験勉強そのものだということです。リサーチはほどほどに。リサーチが“仕事化”し始めたら黄色信号です。

動機付けは医学部受験の大きな燃料

医学部受験は長く、つらく、すぐ結果が見えない世界です。しかし、医学部合格を人生のゴールではなく医師人生の序章と捉えられるようになると、受験勉強そのものが苦行ではなく準備として受け止められるようになります。こうなると不思議と勉強が苦ではなくなります。

学年で“触れ方”は変わる

高校1年生や2年生であれば、医療現場の雰囲気に触れる機会を作ることが大きな財産になります。医療施設のボランティアや病院見学、医療系サマーキャンプなどは、現場を肌で感じられる貴重な経験になります。

高校3年生や浪人生であれば、受験勉強が中心になるため、医療系の動画を見たり、医療ニュースを追ったり、ウェブサイトを眺めたりする程度の関わり方で十分です。

扉の向こうにある世界

サッカー選手を目指す少年が、デビューしてから初めてサッカーについて調べ始めることはまずありません。医師も同じで、早い段階から興味の芽を育てていくことは自然です。しかし、芽を育てることとリサーチに溺れることはまったく別物です。

医学部受験は人生の序章です。その先にある長い道を考えるなら、ほんの少しの興味と、ほんの少しのリサーチが良い案内役になってくれます。